2005年10月16日 (日)

Now Playing|Coldplay / X&Y

Amazon.co.jp:Coldplay / X&Y

Coldplay史上最高傑作を謳われ、売れに売れている本作は、beat UKでもハードプッシュされていた「Yellow」から地続きの、しかし、大きな成長が伺える一枚です。

例えば、雲を掴む様な捕らえ所の無いサウンドは、良く言えば浮遊感がある一方、パンチに欠け、迫真に迫るものがない。メロディの美しさ、サウンドの鮮やかさ、アレンジの青臭さ、どのコピーも適当なものとは言い難く、テーマ性に対するフォーカスの揺らぎが音楽を殺している───U2やRadioheadと比較されては並び称されるColdplayですが、そのサウンドに味わい深さや奥深さを期待すると肩透かしを食らうのではないか。当初は、Coldplayの繰り出す性格派のサウンド、そしてクリス・マーティンの一癖も二癖もあるボーカルが単純に肌に合わないことを危惧していました。

が、そんな微妙な第一印象も、出来得る限りの最高の視聴環境で、心の赴くまま音圧の波間に身を委ねれば最後、臆することなく五感を曝け出し、自己の本質が「X&Y」の本質と真正面から向き合った時、このアルバムの凡作評価はあっさりと覆ることになりました。

彼らは、元々がアクティブな攻撃性を売りにするバンドではなく、どちらかと言えばフェミニンで控え目なサウンドを展開する「動」に対する「静」のイメージがありますが、本作における一見して繊細なサウンドは、彼らの自己主張を浸透させる為の潤滑油としての働きを果たしながらも、それは狡猾なカモフラージュに過ぎず、神髄は等身大剥き出しのロックにあります。ある意味では、その計算高さが大胆さを通り越して、突き抜けた開放感すら感じさせる快作ですが、同時に、個々の楽曲よりも、アルバムとしての文脈を掘り下げて行ける、コンセプチュアルな深みを持った作品でもあります。

しかし、ともすればその耳障りの良さは諸刃の刃で、その前向きな優しさと生命感に溢れるパッションが、鬱屈とした今の私には辛い。M.4「Fix You」など、ロックとしては美し過ぎる。生半可な気持ちで聴いていると、肉体ごと心が抉られる思いです。このアルバムの根底にはあまりにも力強く、そして美しい魂が通っていますが、それ故に、その眩いまでの輝きに当てられることがある。またいつか、このアルバムを受け入れられる日が来るまで、私の失われた10年と共に「X&Y」は封印しておくつもりです。

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