2006年03月12日 (日)

「蟲師」最終回

命そのものとも言える原初的な存在「蟲」を蟲師ギンコを通して追体験する「蟲師」は、土俗的な幻想風景の中で、時に神秘的でさえある蟲との関わり合いを描いた物語です。

現代に忘れ去られがちな「畏怖」を思い起こさせてくれる「蟲師」のエピソードは、ともすれば不条理で、悲劇的で、そこはかとなくメランコリック。しかし、ひとたび足を踏みしめれば土の香りさえ漂わせるその世界観は、独特の雰囲気と説得力を持って心の奥底に迫り、一方で、温もりをも感じさせる物語の中で紡がれるキャラクターは、人格から感情の揺らぎ、機微に至るまでが細やかに描き込まれていました。

一見、古典的な奇譚、おとぎ話として結実していたエピソードの数々は、しかし何かの主義主張を声高に語るのではなく、あくまでも印象的な、あくまでも魅惑的なムードを生み出すことを狙ったもの。蟲がいて、人間がいて、ギンコがその間をすり抜けて旅をしているような、静かで、優しい、空気の様な存在。その高みは最後まで綻ぶことなく、ハイクオリティな演出を実現しました。

第20話「筆の海」

禁種の蟲をその身に封じ、定められた運命の元に生きる娘。哀しみに寄り掛からず、寂しいとも付かない、不思議な頂きの物語は、しかし決して視聴者を突き放すことはありません。蟲に苦しみ、蟲を楽しむ……最も身近に蟲と共存している少女は、特異な蟲師であるギンコに光明を得ます。これまでの全20話の蟲絵巻を大きく包み込むラストは余韻を与え、爽やかな読了感をもたらしてくれました。地上波の区切りとしてはこれ以上ないまとまりの良い最終回だったと言えるでしょう。

これ以後、26話まではDVDを追わなければなりませんね。土曜深夜、至福の一時もこれまで。短い間でしたが、ごちそうさまでした。

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