2007年03月10日 (土)

アニメ「009-1」視聴完了

1クール遅れで、ようやく視聴完了。

あらすじ

冷戦が140年続くもうひとつの未来。地上は二つの世界に分断されている。
ウエストブロックとイーストブロック。
核の脅威で保たれたいつわりの平和の下、両陣営は情報という名の戦争を続けていた。
非情の世界に生きるスパイ同士の争いに、ミレーヌ・ホフマンは何を見るのか。

http://www.tbs.co.jp/anime/009-1/

#12「夜明け Daybreak」

ミュータント同士の精神ネットワークがもたらす逆爆発。物語は、地球から最後の舞台、月面へ。

「自由と平和」を賭けた、ミレーヌ・ホフマンとロキの闘い。「スパイ」という存在が、いかに孤独で悲哀に満ちたものであるか、死に別れた筈の姉弟同士の決戦は、その「自由と平和」というテーマを明示しつつ、収束して行きます。Dr.グリーン、ミュータント、ネイティブ、全てを隅に追いやって最後に描かれたのは、悲壮なロキの運命と、それを目の当たりにして更なる悲しみに暮れるミレーヌ、二人の心模様でした。

目指す場所は同じでも、考え方の違いによって、相反する立場になった対の存在。しかし、ロキの行動と対比されるミレーヌ・ホフマンの心情をして、「世界が悲劇だけで出来ているのではない」という言葉に必ずしも説得力がないのは、人間の持つ曖昧さや不条理さといったものを、彼女自身が目の当たりにしてきたからこそ。その説得力のなさこそが即ち「009-1」の真骨頂であり、逆説的に、この作品の骨子である「自由と平和」の持つ意味を浮かび上がらせています。この闘いの結果が、ミレーヌのスパイ人生や、延々と続く世界の冷戦構造に表立った変化をもたらすことはない、それでも、ミレーヌや迫害された者達にはなお可能性が残されている───“自由とは自身で選ぶことに意味がある”という古典的なテーゼを現代の視点から仕立て直すことで、石ノ森章太郎作品の時代懸かった虚無的、諦観的なテイストを生かしつつも、新たに一本筋を通すことに成功しているのではないでしょうか。

エピローグは、ロキの遺体だけが見つからないという含みを持たせた終わり方。こじんまりとした描写に収束したことで、ある意味では地味でこそあったものの、実に綺麗なまとめ方だったと思います。自由の為に無念の死を遂げた(と思われる)弟を眼前にして、その悲劇の重ささえも受け止めて日常に戻れるミレーヌは真に強く、アイロニーに耐え続けようとする彼女はハードボイルドと呼ぶに相応しい。ただ、個人的には、彼女の心情に何かしらの決着は付けて欲しかったので、その点を含めて、是非とも第2シーズンを期待したいところ。作品の主軸がこれだけしっかりしていれば、続編も作り易い筈です。

1クールという短丁場だったが故に、9ナンバーズを始めとしたキャラクターの広がりには不満が残り、消化不良な部分もありました。しかし、スタッフは実直に石ノ森章太郎作品と向き合い、独特のレトロフューチャーな雰囲気の再現に務めていたと思います。世間的にはあまり話題にならなかった様子ですが、下手に時代に迎合しないストイックな姿勢は評価出来るのではないでしょうか。

009のようなサイボーグ要素と007のようなスパイ要素、そして主人公はナイスバディの美人諜報員。大人の視聴者に向けたアダルトで落ち着きのあるアクションアニメという謳い文句も、後半は心理描写が増えたことで、痛快さという部分ではややナリを潜めていましたが、アクション、謀略、エロスといった単純な娯楽要素だけに留まらない、渋い味わいがあったと思います。ダイナミックな作画は堅調そのもの。脚本も演出もキャストも、最後まで破綻することなくクオリティを保ち、総じて佳作と言っていい出来映え。感情を押し殺した釈由美子さんの舌足らずなセクシーボイスも魅力的で、何というか、わざとらしさのないとても絶妙なアニメでした。

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