2007年04月02日 (月)

アニメ「武装錬金」ピリオド

カズキの強さにオレが泣いた───第24話「キミが死ぬ時が私が死ぬ時」の余韻も覚めやらぬまま、いよいよ最終回を迎えた「武装錬金」。

武装錬金

それは、操るものの力に作用する究極の武器(チカラ)

私立銀成学園高校。
ごく普通の高校生活を送っていた武藤カズキは、ある晩怪物に襲われていた少女を助けようとして、命を落としてしまう。しかし、その少女・津村斗貴子に錬金術研究の成果である「核鉄(かくがね)」を埋め込まれることによって命を救われる。同時に、唯一無二の武装錬金「ランス(突撃槍)」の力を手に入れたカズキは、人を喰らう怪物・ホムンクルスの存在を知り、戦いの世界に足を踏み込む。次々にあらわる奇怪な強敵との戦いの中で、カズキは錬金の戦士として成長していく。

そして、カズキに埋め込まれた「核鉄」の真の力とは・・・!?

http://www.busourenkin.com/

#26 ピリオド

「お前にはいるのか!武藤カズキの代わりが!」───パピヨンの叫びと共に、ストーリーはラストフェイズへ。パピヨンは、カズキを諦めず白い核鉄を精製していた。「貴様は武藤カズキを諦められるのか」───斗貴子に突き刺さるパピヨンの言葉。戦意を喪失した斗貴子の頬に涙が伝う。無情にも見上げた月に、山吹色の閃光が走る。カズキの生存を確信した一同は、バスターバロンを駆り月へ向かうのだった───

ほぼ独学にも関わらず、僅かに1ヶ月で白核鉄を完成させてしまったパピヨンの天才ぶりに驚愕し、酸素すらない死の星で、補給も無しに1ヶ月もの間戦闘を繰り広げていたカズキとヴィクターの荒唐無稽さに戦慄するも、カズキと斗貴子さんのめぐりあい宇宙はこれ以上ない決めカットで噴飯。後半は、怒濤のカズキvsパピヨンの決戦を挿み、黒い核金の浄化、錬金戦団の一時凍結を経て、平和になった世界のエピローグへ。

全ての決着と、日常への帰還を描いた大団円の最終話は、1エピソードでやれることをやれるだけ詰め込んだ内容で、高密度かつスピーディな展開。その分、思いの外あっさりと決着してしまったカズキvsパピヨンの対決や、尺の短いエピローグには物足りなさが残りましたが、ストロベリーな余韻に浸りながら、後味は清々しいまでにスッキリとしており、2クール分の確実な手応えを感じさせます。型通りの演出は無難そのもので、王道一直線を地で行くもの。ベタな通俗性を面白味に欠けると評価することも出来るでしょうが、総じて、スタッフの作品に対する愛情と入れ込み具合が伝わる出来でした。エンドロールに差し込まれた無声漫画演出によるアフターのお陰で、最終話全体の印象は一回りも二回りも良くなっていますが、やはりキッチリと結末を見せてくれる作品は気持ちが良いものです。

この作品には絶対悪が存在しません。打算ではなく、己の存在意義を懸けているが故に、敵と味方がコロコロと入れ替わる。そんな状況だからこそ、カズキの揺らぎの無さやひたむきさが光りました。元々ヒーローとしての素養を持っていた彼は、昨今の「悩みつつ成長する主人公」像を吹き飛ばして、最も臆面もなくヒーローしていたヒーローと言えるでしょう。二兎を追うものは二兎とも取れ、の天道様よろしく、二者択一を迫られた時に、二者とも選んでしまう第三の道を選択するのがカズキという男。暴力での単純解決や、浪花節的犠牲論でなく、第三の道を模索する態度を一貫する、という天然入りの熱血漢。ヴィクターをも地球に連れ帰ろうとする行動や、「以前にも増して大層な偽善者ぶりだな」とうそぶくパピヨンの言葉にも動じる事なく、“誰それに関わらず犠牲を出さない”という自らの信念を貫徹するその姿は、正に文字通りの勇士。カズキから最後まで屈託のなさを奪わなかった、先人が評するところの“少年漫画的良心”は称賛に値しますが、彼個人の描写はもちろん、冷酷なスパルタンから人間的な笑顔を取り戻すヒロイン、反社会的の烙印を押された存在の心情の変化……といった具合に、カズキに対する斗貴子さんや剛太、パピヨン、ヴィクターといった周囲のキャラクターの個性が立っていたことで、それが際立たされていた部分はあったと思います。

あくまでもバトルメインでありながら、ここまで死人が出ずに、敵味方共にほぼ全てのキャラクターが幸福に終わった作品も珍しいですが、そんな極上のハッピーエンドを体現する脚本の中でも、カズキ&斗貴子さんのコンビは、ここ数年のアニメ作品の中では久々にヒットしたカップリングです。しかし、カズキの生還を信じ、彼を人間に戻す為のアイテムの生成に没頭し、身を挺してそれを守ったパピヨンと、半ば八つ当たりともいえる動機で彼を襲撃し、危うくその白核金をブチ撒けそうになった斗貴子さんとでは、格の違いを見せつけられた格好。最後の最後まで、パピヨンのカズキへの一途な想いは斗貴子さんのそれを上回っており、斗貴子さんはヒロインとしての立つ瀬がありません。それほど、アンチヒーロー的な造詣を含むパピヨンの変態性は際立っており、作品のハイライトを飾る第2のヒロインとして面白い存在でした。

少年漫画的なファクターをこれでもかと詰め込んだ「武装錬金」。何よりも見せたかったのは王道的なシチュエーションであり、そこから導き出されるカタルシス。ともすれば、キャラクターよりも、ドラマよりも優先されたその原動力のお陰で、原作を補完しつつ、やり残したことはほとんど無いという、原作付きアニメとしては稀に見る理想的な仕上がりとなりました。序盤こそもう一歩足らないといった感じでしたが、後半のお膳立てと盛り上がりは見事の一言。大衆演劇的なベタを正面切ってやる、というのは決して間違ったことではなく、それを身をもって証明したこの作品は、それだけでも値打ちがあります。

2クールに収まり易い形で原作が完結しているお陰もあって、冗長なオリジナルに脱線することもなく、ストーリーや構成を練り上げることが出来た、という部分は大きな勝因だったと思いますが、昨今の少年誌のイメージはといえば、少なからず読者にすり寄る作品が増えていると感じられる中で、実に少年誌らしい少年漫画をしている貴重な作品だったのではないでしょうか。「るろうに剣心」に代表される和月伸宏氏の作品はあまり好きではなかったのですが、この「武装錬金」だけは別格扱いにせざるを得ません。今回の「なにくそ!生きろコラ!」といった風な力強い作風には感銘を受けました。カズキといいブラボーといいパピヨンといい、“いい男”が“いい男”として実に格好良く描かれていたのも印象的。最近では、どこぞのコミックも即ちアニメ化決定という大勢ですが、この作品は、元々がアニメ映えする原作だったこともあり、これ以上ない幸せなメディアミックスだったと総括することが出来そうです。

逆に考えれば、この作品が打ち切りという憂い目に合ってしまう、という現状に「少年ジャンプ」の迷走が伺えます。瞬間風速的な突風だけを観測し、航行に必要な深度を計らず、長期的な視野を持たない短絡的なマーケティングは、そろそろ限界に来ているのではないでしょうか。まぁ、商業主義的な陰謀でグダグダと物語が延び、作品から腐臭が漂う頃合いにどうしようもない打ち切りラストを迎える漫画が数多あることを考えれば、「武装錬金」にとって打ち切りはむしろ幸せなことだったのかもしれません。

唯一の心残りといえば毒島さんの素の声が聞けなかったことですが、キャスティングもほぼ完璧と言えるもので、非常に充足した気分です。傑出したOPテーマである福山芳樹「真赤な誓い」は勿論のこと、第二期EDテーマに切り替わってからは、必ず次回予告まで見逃さないという程度に加々美亜矢「愛しき世界」は好きだったなぁ。

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