2007年04月08日 (日)

英EMI、DRMフリーの楽曲配信を発表

英EMI Group傘下の英EMI Musicは、同社がデジタル形式で提供している全楽曲をデジタル著作権保護技術を施さずDRMフリーで小売業者に提供することを発表しました。これを受けて米Appleは、iTunes StoreにおけるEMI MusicのDRMフリーコンテンツの販売を5月からワールドワイドに実施することを明らかにしています。なお、日本での展開については現時点では未定としていますが、英EMI Groupが出資する東芝EMIでは「対応を検討していきたい」とのこと。

英EMIが“DRM無し”音楽配信を実施
英EMIがDRMフリー楽曲の提供を開始、iTunes Storeが5月から販売

EMIでは、DRMフリーの楽曲を「プレミアムダウンロード」として既存の音楽配信の上位版と位置付け、より高音質を求めるホームオーディオ製品などへの展開や、様々なデバイス間の自由な相互運用をメリットに、広く訴求していく考えです。

iTSでの価格は、通常の配信楽曲がビットレート128kbps / AAC形式で1曲99セントなのに対し、DRMフリーの楽曲は倍の品質に当たるビットレート256kbps / AAC形式でエンコードされ、1曲1.29ドルに設定。また、従来のDRM付き楽曲に関しては、価格は据え置きのまま販売が継続されます。過去にDRM付きの楽曲を購入したユーザーに対しては、1曲30セントでDRMフリーの楽曲へアップグレードできる機能を追加するとのこと。なお、EMI MusicによるミュージックビデオはすべてDRMフリーフォーマットで提供され、価格に変更はありません。

Appleのスティーブ・ジョブズCEOは、「iTunesの顧客に選択肢を与えたい。既存の99セントの曲に30セントを加えることで、同じ楽曲でより高音質かつ相互運用性に優れた楽曲を購入できる。消費者は支持してくれるだろう。2007年末にはiTunes上の楽曲の半分でDRMフリーバージョンを用意したい」とコメントしています。

早い時期からDRM廃止の考えを表明していたジョブズCEOの提言が実を結んだ形ですが、Appleにとっては独占禁止法を始めとする欧州からの激しい批判を回避する手立てにもなるので、非常にクレバーに、或いは狡猾に立ち回ったなぁという印象です。

ただ、未だにCDを買い続けている私としては、そもそもCDとデジタル音楽配信は別物だと捉えており、例えば音質的にも物質的にもプレミアムバリュー的にも、音楽配信はCDの代替になるものでもなく、同列に扱うべきものだとは考えていなかったので、必ずしもDRMフリーは必要ないのではないかと感じていました。元々iTSのDRMは市場の中では緩い部類で、その点、Appleは非常に上手く差し繰りしていると思っていたので、それ以上の制限解除を要求する潮流にはピンと来ていなかったのが実情です。

CDが売れなくなった一因として、仮に「コピーすればいいから or 買わないで済むから」といった要因があるとすれば、オンラインでよりコピーし易くしてしまうのは本末転倒というもの。欧州の消費者団体によるDRM解除運動も解せないところで、例えば、CDに焼く手間さえ惜しまなければDRMは解除出来るし、そもそもCDを購入すればDRMは無い。iTSで買う自由も買わない自由も消費者にはある筈です。それを、どうしてもコピー出来る方法で販売したいということは、売手と買手の投資価値までもを流出させたいのかと、一抹の危惧を禁じ得ませんでした。日本という特殊な市場性を考える場合は、著作権ビジネスとして利潤を中間搾取する存在を考慮しなければなりませんが、極論、音楽は儲からないから誰も歌わない、なんて日が来てしまったら困るのは誰か、といった話に帰結します。

と、ここまで一気に吐き出したところで、要するにこの一件は、CDで買うことと音楽配信で買うことと「どこが違うの?」という根本的な問い掛けから始まっている模索なんだろうことに、ようやく思慮が及びました。CDで購入した楽曲は、一旦iTunesに取り込んでしまえば一切の認証は必要としない、一方で、iTSで購入した楽曲は、Mac / PC 5台までという制限付き……自分が資材を投資して視聴する権利を買った楽曲なのに、自分の自由にはなっていない、それはおかしい、という流れがあっての決断だとすると、EMIはCDとデジタル音楽配信を同列に考えている、つまり、将来的にはCDをやめてしまうくらいの覚悟をもって臨んだ大英断だったのかもしれません。個人的には市場からCDが消えられると大層困ってしまうので、ニッチとして生き残ることを楽観したいところですが、そういう意味では、歴史的な転換点となり得る試金石ということなのでしょう。

音楽著作権を巡る問題は、互いに要らざる疑念の押し付け合う“囚人のジレンマ”に近い状態に陥っており、権利者側の「鍵をかけておかないと盗み尽すに違いない!」という意識と、ユーザー側の「音楽を利用して不当に稼ぐ腹積もりに違いない!」という意識が軋轢を生んでいます。かといって、片一方が相手を信頼すれば即ち全てが解決に向かう、と単純化できるほど簡単な問題でもありません。性善説を元手に、当面、ユーザーにとって選択肢が増えるのは良いことですが、これがユーザー、レーベル、ミュージシャンの三方にとって最も幸せな方法かどうかは、しばらく様子を見る必要があるのではないでしょうか。

リンク:
http://www.apple.com/jp/news/2007/apr/03itunes.html

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