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2007年06月28日 (木)

アニメ「デスノート」最終回

原作漫画はほとんど未見である為、比較的ニュートラルなスタンスでエピソードの連綿を楽しむことが出来ました。サイコサスペンスとしては軽薄で、シナリオの筋はご都合主義そのもの。キャラクター同士の駆け引きも無茶で強引な展開が目立ち、詰めの甘さが散見できましたが、アニメ版「デスノート」を語る上でそれは特に問題ではありません。

アニメ版は、原作漫画の名場面に、主題歌、BGMが彩りを添え、独自のゴシック調な世界観を構築。デスノートを巡るザックリとした知能戦や心理戦を、時に仰々しく時に厳かに、強烈な演出がとことんまで派手派手しく盛り上げました。特に、テクノロジーを巧みに駆使した作画は、歯切れの良いキャラクターデザインと相俟って、平均以上のクオリティを維持。丁寧な背景美術と繊細な色彩設計によって、現実と幻想の狭間に揺れる魅惑的な異次元空間を表現し、TVアニメとしては高レベルの映像水準を体現しました。また、脚本や演出についても無難にまとまっていた印象で、突出した見せ場こそ少ないものの、原作の抱える矛盾や破綻をもエンターテイメントとして抱擁してみせる懐の深さが感じられました。特に後半は、小気味良いリズムを刻むストレスレスな構成によって、次の一手を巡るワクワク感が途切れることなく、臨場感が持続。夜神月、L、ニア、メロ、それぞれのキャラクターの激しい内面と驚異的な洞察力は荒唐無稽でこそあれ、迫真さが失われることはありませんでした。テンポが重視される一方で、しかし、各々のパーツは最高に磨き上げられており、総じてB級サスペンスの傑作と位置付けて差し支えない作品でしょう。

#037「新世界」

逃れることのできない確たる証拠を突きつけられた月は、ついに自分がキラであることを自白する。
「人を殺すことが犯罪なんてことは分かっている。しかしもうそれでしか正せない。」
追い込まれた月が、腕時計の中に隠し持っていたデスノートの切れ端にニアの名前を書きこもうとした瞬間、松田が月へと発砲。無残な神の姿を目の当たりにした魅上は、持っていたペンで自らの心臓を貫き、自殺する。

致命傷を負った月は倉庫を飛び出し、外へと逃亡。朦朧とする意識の中、月は空から落ちてきた一冊のノートを思い返す。
光を求めた純粋な心は、いつしか闇に食い潰される。
逃げ惑う月を見つめるリュークは「色々面白かったぜ」と死神界の掟通り、月の名前を自分のデスノートへ書き込む。
40秒後—心臓麻痺。
月は最期にLの幻を見る。

http://www.ntv.co.jp/deathnote/

最期まで悪役を貫き、命乞いをして惨めたらしく死ぬことの意味を考えると、アニメ版のエピローグは原作の主張や思想を否定する改変だとして、或いは原作以上に情報不足な描写を批判する意見も納得できるのですが、想像の余地を残しつつ、視聴者に判断を委ねるラストも有りだと思います。オリジナルとは対を為すアニメ版の締めとして、非常に綺麗なまとめ方だったのではないでしょうか。9ヶ月の放送を終えて、満足度は高いです。

原作のシニカルなエンディングに対して、アニメ版は月もニアもリュークも誰も彼もが皆、情緒的になっていましたが、それはそれで趣き深い味わいがありました。それを端的に表していたのは、月の死に様よりも、むしろリュークの別れの言葉の切なさだったのではないでしょうか。本来的には、気まぐれ屋が楽しめなくなった玩具を捨てただけなので非情ですらないのですが、実際には人間以上に人間臭い、たまらなく哀愁が滲み出ていたのがアニメ版の特徴です。

一方、高い正義感を持つが故に、次第に悪の道へと染まって行った月。しかし、それでも彼の倫理観はどうしようもなく立派なものであった為、その矛盾から生ずるテーマ性を突きつけられた時に、視聴者は葛藤し、苛まれることになりました。作品が伝えたかったことは、月の行為そのものへの関心だけではなく、月が起こした事件によって世の中がどうなっていったのかを考えさせること。ただ、アニメ版の表現の限りでは、デスノートによる作用の広がり、世界環境や情勢の変化までもを存分に推し量ることが難しく、結果的に月一人の心理描写に絞られてた印象です。その善し悪し、或いはメッセージ性の善し悪しは置いておいて、月とLの奇想天外な思考戦を描いた1部と、デスノートを持った者の末路を描いた2部、それぞれの骨子はしっかりとしており、あれだけ一つ一つの演出にこだわりを見せたスタッフの、ある意味で骨太な姿勢は評価出来るでしょう。

終盤のエピソードでは、取り急ぎバタバタと登場人物が死に過ぎた感覚がありましたが、それもクライマックスへ向けての布石と捉えれば合点が行きます。山口勝平、或いは日高のり子とのコントラストが際立つ宮野真守の神がかった演技も見事でしたが、たっぷりと余韻に浸れるだけの余裕と深度を持った最終話でした。

エピローグは、デスノートの最後と、夜神月の終焉。あの頃の退屈な自分と、今、命がけで逃走している自分の姿を交互に映し出し物思いに馳せることで、恍惚とした陶酔半分、色々と考えさせられる終わり方だったと思います。走馬灯のように思い返される日々と、あの日を境に己の行為が生み出した結果との対比は惨めさに潰れ、ただの秀才高校生だった頃の自分に戻りたい、そんな後悔に戦慄いているかのような錯覚さえ覚えました。

大義名分の自己暗示にかかりながら大量殺人を繰り返した月の生き様は、自分の心理と理念の満足を得るために人を殺すという、死神の力に現を抜かした殺人狂のそれ。しかし、デスノートによってもたらされた世界は、月だけの完全な主観の世界だったからこそ、酔いが醒めた時に、彼はその現実に恐怖しました。幾分マシな人生だ、などと呑気に達観出来ない事実が最後の最後で月を揺さぶるからこそ、物語が不健全な方向にすり抜けずに終結していると言えます。そういった意味では、我を忘れた月よりも、自我を保ちつつ、僅かな時間の猶予を与えられた月の心境の変化こそが、アニメ版の白眉だったと言えるでしょう。死を厭い無様に倒れる原作のシーンより、自問自答に足るだけの考える余地を与えられる方が、月にとっては残酷な運命だったと思います。己の手には決して届かなかった世界の情景がやけに綺麗に見えたその日、彼は階段の踊り場で潰えました。まるで眠るかの様に安らかですらあった最期の姿から想像出来ることは少ないですが、生の果てを目前にして、その階段を這い上がり、せめて現実の世界の光りを目に焼き付けようとしたのでしょうか。

Lの死を跨ぎ、重要なエピソード、幾つかのクライマックスを見事なバランスで配置した構成の妙味と演出の力。これも、原作が後腐れなく終結しているからこそ実現出来た芸当でしょう。前評判から、中盤以降、Lの死によるパワーダウンが懸念されたものの、ニアとメロのコンビはその穴を補って余りあるだけの仕事をこなしました。Lの不在を杞憂に追いやるだけのエネルギーに満ちた歩調で物語を牽引し、第2部も本質的な面白さに遜色はありませんでした。それでもまあ、一番気に入っているエピソードを挙げるとすれば、それは間違いなくLが破れ去った#025「沈黙」になりましょう。

ただ、作品の性質上、一度視聴してしまえばそれで概ね満足してしまうので、繰り返しの視聴に向いたアニメではありませんでした。それでも、マキシマム・ザ・ホルモンによる第2期OP&EDの突出した楽しさだけはガチ。

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