2008年01月22日 (火)

「仮面ライダー電王」最終回

一年間、駆け足で追ってきた「仮面ライダー電王」も正真正銘のクライマックス。良太郎を含むあらゆる人々の記憶を消費し尽くした結果、誰もが忘れたままに礎となった戦士=桜井侑斗の存在は消滅してしまいましたが、物語としては現状考え得る最良の結末を迎えており、非常に満足度の高い最終回だったと思います。俺、そういう顔してるだろ?

最終話「クライマックスは続くよどこまでも」

良太郎はオーナーにパスを返却。デンライナーから降りることになった。ミルクディッパーにも尾崎(永田彬)、三浦(上野亮)がやってくるにぎやかな日常が戻ってきた。侑斗とデネブ、コハナ、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ナオミ、そしてオーナー…。すべての仲間たちに自転車に乗りながら別れを告げる良太郎。最後までよそ見をしていたモモタロスも思い切り手を振った。

「また会おうぜ!」

良太郎は空へと消えていくデンライナーをいつまでも笑顔で見送っていた。

テレビ朝日|仮面ライダー電王

思えば、衝撃の“仮面ライナーショック”から始まった電王。良太郎のヘタレっぷりに、殺陣の大雑把さに、「仮面ライダーカブト」とのあまりの落差に当初はイライラの連続で、序盤は退屈ですらあったものの、ゼロノスが登場したことで空気が一変し、中盤以降、本格的な作劇が始まってからは俄然面白さが感じられるようになりました。テンポとノリは良かったけれど、勢いだけで突っ走っていた訳ではないのが電王の魅力。平成仮面ライダーシリーズよろしく、相変わらず未消化な部分は散見できましたが、“視聴者の想像”に委ねる為のプロセスをそれなりにしっかりと描いたことが最大の功績でしょう。また、一年という長丁場を想定した上での入念な構想を用いて、最初から完成された人格を登場させるのではなく、良太郎が、イマジンが、彼らが成長していく様子を時間をかけて丹念に描写したことが、この作品を成功へ導くことに繋がったのだと思います。自転車で疾走するラストカット、力強くペダルを漕ぐ良太郎が決して転倒しなかったことが最も端的な成長の証。日常から非日常へ、そして非日常からまた日常へ。これだけ清々しい別れ、頼もしい別れも珍しい。

惜しむらくは、評判を聞くところの牙王に匹敵する格と強さを併せ持ったボスが最後まで登場しなかったこと。やはり、カイのキャラクターとしての面白さは強大さとは別の次元にあるもので、彼には絶対的な強さが足りませんでした。また、先人に曰く「子供向けの娯楽作品という体裁を取り、確実に玩具を売り捌きつつも、実際には深いテーマを内包させたドラマ」という骨格に忠実過ぎた為、話がやや難解になってしまったこと。話に整合性を持たせようとすると、比例して時間軸の管理も厳しくなるので、子供にはストーリーの把握が難しかったと思います。その辺りが、DVDは飛ぶように売れているが視聴率は低迷していた、という現状にも表れているのではないでしょうか。

それでも、前段「仮面ライダーカブト」のスタイリッシュ路線とは対照的ながら、コミカルなストーリー仕立てで楽しませてくれた電王。一つ一つが鮮烈に印象に残るような突出したエピソードこそなかったものの、そこは一本筋の通った大きな話の流れがあり、全体的にソツがありませんでした。一方で、最終回までに白鳥百合子さんの復帰が実現しなかったのは痛恨の極みですが、しかし、ハナの降板は役者側の都合であるにも関わらず、それを逆手に取り、物語を破綻させることなくタイムパラドックスをまとめ上げてしまった電王組の手腕は見事という他ありません。結果的に、ハナという特異点がクローズアップされることなく、立ち位置が曖昧なままフェードアウトしてしまったことで物足りなさが残ったのは事実であるものの、“登場人物が物語を作る”という電王の強みはそのままに、最後までキャラクターが活き活きとしていたのが好印象でした。

そう、最後まで勧善懲悪を貫き、最後まで電王らしさを崩さなかった電王。そのあっさりとした引き際でさえも美しい、清々しいまでのハッピーエンドとはまさにこのこと。「終わりよければ全て良し」が全てとは思いませんが、実際問題、「仮面ライダー響鬼」や「仮面ライダーカブト」の最終回はお世辞にも褒められたものではなかったので、物語の締めの大切さを痛感しています。「仮面ライダー剣」に勝るとも劣らないまとまりの良さは、平成仮面ライダーシリーズの中でも屈指の出来映えであると断言できるでしょう。終盤グダグダのジンクスをものともせず、そういう意味では、極めて無難にクライマックスを盛り上げたお手並みはそれだけでも評価に値します。

仮面ライダーに斬新すぎる新たな地平を切り開いた電王ですが、しかし実態はといえばそれは紛れもなくヒーローの物語。モモタロスらイマジンによるデコレートと、ヒーロー要素の役割分担によってエンターテイメント性は確保されているものの、仮面ライダーの根底に流れている悲壮と使命と正義のオリジンは確実に引き継がれており、一見、仮面ライダーとしては異質でも、ヒーロー番組としては実に王道的な作品でした。ただ、この指向性で電王に匹敵する作品を生み出すのは中々難しいでしょうし、あまりにコントコントしているのもどうかと思うので、電王モデルが今後の平成仮面ライダーシリーズの既定路線になることはなさそうです。

ということで、これだけスッキリと終われば名残惜しいこともなく、それでいて個人的には下手をすれば「仮面ライダーカブト」に肩を並べるだけのお気に入り作品となった電王ですが、この作品での収穫はといえば、特撮技術の蓄積でもなく、番組を面白くするノウハウの蓄積でもなく、実は中村優一君だったのではないでしょうか(笑)。まさか彼の演じるキャラクターに愛着を持つ日が来ようとは、中村優一君の成長は目覚ましく、「仮面ライダー響鬼」での桐矢京介の悪夢は完全に払拭されたと考えていいでしょう。侑斗に彼をキャスティングしたプロデューサーの英断、仮面ライダーの汚名を仮面ライダーで返上する機会を与えるという電王組の粋な計らいに、心から拍手を送りたい気持ちです。勿論、彼自身の努力と強い心にも。

追伸、戦隊モノっぽい仮面ライダーの極めつけが“俺の必殺技ファイナルバージョン”であるならば、本家本元「獣拳戦隊ゲキレンジャー」は、番組開始以来の伏線を回収し、主要キャラクターの相関関係が解き明かされるこちらも怒濤の展開。敵側のキャラクターが立ちまくりなのはともかく、生い立ちといい、役回りといい、これではどう見ても理央様が主人公です。メレ様に至っては囚われのヒロインを演出してみせる始末で、ここ終盤に来て存在感が希薄になっているゲキレンジャー陣営はどうにも頼りない。正義の味方ガンバレ!

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