2008年06月20日 (金)

水野晴郎氏が死去

映画評論家の水野晴郎氏が10日、肝不全のため東京都内の病院で死去しました。享年76歳。最後にテレビで見掛けた時にはかなり痩せていた様子だったので気になっていましたが、突然の訃報に驚きを隠せません。

水野晴郎といえば、カルト的な人気を誇る「シベリア超特急」の製作・監督・脚本・主演をこなすマルチタレントぶりでも気を吐いていた映画評論家ですが、個人的には、やはり金曜ロードショーでの映画解説と「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」の名文句が思い浮かびます。映画解説者がブラウン管から姿を消して久しい昨今、金曜ロードショーの水野晴郎、ゴールデン洋画劇場の高嶋忠夫、日曜洋画劇場の淀川長治と、テレビ映画の黄金期を辛うじて齧り、思い入れのある世代としては、何とも感慨深いものがあります。

一方、水野晴郎は著名な映画評論家としての顔以外にも、ユナイト映画在籍時代には海外作品の邦題を考案し、歴史に名を残す洋画のローカライズを成功に導いた立役者の一人として、広報マンとしての功績も認められています。「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」を持ちネタに芸の幅を広げた晩節は、「シベリア超特急」で怪気炎を上げるだけでなく、肛門は入り口発言が物議を醸すなど、多方面で披露されるユニークなキャラクターが印象的でしたが、しかし、先の金曜ロードショーでは、厳しい目で映画を評論する評論家としての立場とは別に、“とりあえず難しい話は置いておいて、視聴者に純粋に映画の楽しみを知って貰おう”という「映画紹介者」としての立場を自覚した、淀川イズムとでも言うべき心得を踏襲したプロの仕事を確立していました。それは、例えば最近のCMやバラエティでよく見られる映画宣伝の為のヨイショ解説者とは違い、伝道師としての看板を請負いながら、時に映画と視聴者との間の架け橋となり、或いは潤滑油となる、言わば小説の前書きや後書きに相当する役回りを担うもので、そういった意味では、戦後第一世代の数少ないプロの「映画紹介者」がまた一人姿を消したことになるのだと思います。

謹んでご冥福をお祈り致します。

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