2009年01月10日 (土)

ひろゆき、2ちゃんねるをシンガポール企業に譲渡

国内最大級のコミュニティサイト「2ちゃんねる(2ch)」管理人の西村博之(ひろゆき)は、1月2日付けの自身のブログにおいて、2chを譲渡したことを明らかにしました。譲渡先はシンガポールにある「PACKET MONSTER INC.」。どう見ても“POCKET MONSTER INC.”を捩っていると思われるその出自はあまりにも胡散臭く、その方面では既にペーパーカンパニーであるとの見方が定着しています。

日本最大のオルタナティブメディアの行方

ひろゆきはブログ内にて、2chの譲渡について海外出張を繰り返し、打ち合わせを重ねていたとする一方、譲渡に至った背景などは明らかにしていませんが、巷では訴訟対策の一環であることが推測されています。2chはその匿名性を逆手に取った名誉毀損などの書き込みも目立ち、管理人ひろゆきを巡っては2ch運営に関する訴訟が相次いで行われていました。今回の海外譲渡によって、今後、2chを巡る訴訟問題への影響が考えられる他、法人に管理責任が移行したことで、書き込み情報の開示など、各種の対応に変化が生じる可能性があります。

ただ、2chの書き込みを保存するサーバー自体はアメリカに設置されており、また、今回の譲渡に際して、従来運営ガイドに添えられていた「書き込み削除の最終責任は管理人ひろゆきにあります。」という表現が削除されていることからも、その実体は、訴訟などの諸問題を解決する為の仮想法人への仮想譲渡である可能性が濃厚であると見られており、これによって2chの運営体制や、2chを取り巻く状況に大きな変化が訪れることはないと思われます。

2chの権化たるひろゆきの戦略

2chの台頭によるアングラの無味曖昧化と、2ch文化の拡散によるインターネットの変容。2chを語る時、その相関、因果関係を無視することは出来ません。日本が生んだ最大のオルタナティブメディアの或いは功罪をここでは語りませんが、インターネットの玉石混淆が凝縮された最低と最高が混在するカオスにあって、自身が茶番を演じて見せるのがひろゆきという存在。マネーロンダリングの達人であるひろゆきが云うところの譲渡が何を意味するのか───を考えれば、自ずとその答えが見えて来ます。

しかし、ひろゆきの姑息な行動は“ネットに国境はない”を地で行く一方、事業者の国籍が変わったことは重要で、2chの外国への譲渡が、書き込みを巡る名誉毀損訴訟や法務省、また、警察庁などの“ネットの取り締まり”を管轄とする官庁にも影響を与えることは必至です。

というのも、2chを斜め見ると、例えば、その手の「マスコミが自分に都合の悪い情報を封じ込める為に圧力を掛けている」といった陰謀論よりも、むしろ、個人情報が掲載されて被害を受けた、謂れなき誹謗中傷によって被害を受けた、などの個人に損害が発生する実際の事例が意外に多く見聞されることが分かります。現状では、事業主体が日本国内にあればプロバイダ責任法などが適用されますが、これが「海外にあるからプロバイダ責任法云々など知ったことか」となった場合、そういった個人レベルで嫌がらせを受けた人が救済されなくなる危険性が高いのではないでしょうか。

これは、既得権益による高みの見物をして、物見櫓の立場から単に「ますます手が付けられなくなる」という話ではなく、法務処理が更に煩雑になることで、司法的な救済がますます狭き門になることを意味しており、現実問題として、中小零細や個人にとっては法的に対処の仕様がなくなる、何を書かれても泣き寝入りするしかなくなる、ということを示唆しています。

ひろゆきは、2chを管理運営する上で、法的な責任追求が実効力を持たないようにしたり、予見可能性を意図的にぼかして荒らしや外部からの要請に対処するなど、自治や秩序を成立させる上でより戦略的なサバイバルを仕掛けていますが、一方で、それはひろゆきが折に触れて公言していた“法制度の不完全なルール”を突いた行動原理によって、彼自身の首を絞めることにも繋がっています。ひろゆきがぶち上げた法律の隙間をかいくぐる処世術は、「民事上の債務は債務者の意思によって履行されることを期待する」として、敢えて曖昧さを残し、正義を慮ることで秩序たらしめんとしている法の原理、性善説に基づいた社会のルールを否定することになるので、こういった理屈が横行する様になれば、国家は、結果として不利益を被ることになる被害者の充分な救済の為に法改正に乗り出すことになります。“ルールの完全整備”とは、即ち、国民の私的領域に対する国家権力の介入を呼び込むことであり、先人に曰く「ルールを完全整備すると恐ろしく住み難い世の中になる」という至言を当てはめれば、いよいよ2ch規制立法が必要かもしれない、という方向性に現実味を持たせる伏線でもあります。

誠意の模索と実現

となれば、ひろゆきに必要な次のステップは、賠償金を全て支払うこと……とは言わないまでも、現実的な問題に誠意をもって対応することなのではないでしょうか。弁護士一人雇えば解決する問題にさえまともに向き合おうとしない人物に、社会は何故こうも寛容なのか、一介の小市民には理解が及び兼ねるところですが、それは「“ひろゆき一人を捕まえれば解決”という短絡」以上の判断が働いているからに過ぎないことなのかもしれません。ただ、裁判所が認めた債務を踏み倒すことを、その能力があるにも関わらず、屁理屈ないし詭弁でもって正当化し、社会のルールを嘲笑って見せるひろゆきという人物像は、誠実さに欠けるという点でもますます好きになれない人間ですが、それでもネットにおける最重要人物の一人として、カリスマたらんとする存在感の大きさは衆目が認めざるを得ないところ。だからこそ、そのような人物が道義的に承服し兼ねるソーシャルハックを公に晒すことの社会的影響を憂慮しています。それは、2chの規模を考えれば、放置すれば国民の規範意識に深刻な悪影響を及ぼし兼ねない、とさえ言えるもので、そういった意味では、いっそひろゆきの様な人物にこそ国策捜査の対象化が為されるべきだと感じることに、躊躇を覚えない昨今です。

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