2009年03月29日 (日)

2009年F1世界選手権開幕

今年で60年目を迎えたF1。車両規則の変更に伴い、各チームが横一線からのスタートを切った2009年シーズンは戦闘力が拮抗、1秒以内に20台のマシンがひしめく戦国時代の様相を呈しています。しかし、混戦模様の開幕戦オーストラリアGP予選ではホンダの遺産ブラウンGPが頭一つ抜け、皮肉にもホンダが15ヶ月掛けて作り上げたクルマの開発アプローチが間違っていなかったことを証明する結果となっています。

開幕前最後のバルセロナ合同テストに滑り込みで新車を間に合わせたブラウンGP。2009年用のホンダマシンとして設計された車体にメルセデス・エンジンを搭載した急造の「BGP-001」は、しかし、そのスピードと、マシン適正から推し量れるポテンシャリティを考えれば、ロス・ブラウン率いる新チームの仕事の質が極めて高いレベルにあることを確信させます。それだけに、昨シーズン中、「08年シーズンを捨ててでも、新レギュレーションが導入される09年に賭ける」と言い続けて来たロス・ブラウンの言葉が、新車の競争力として実証されている現状に憮然ならざるを得ないのがホンダ・ファンの偽らざる気持ち。「BGP-001」には、特製のギアボックスを始め、昨年12月までマシン開発に携わっていたホンダエンジニアのアイデアが随所に盛り込まれています。この結果を見るに、「何故ホンダは後一年やらなかったのか」との無念を覚えずには居られず、この成果をホンダが堂々とアピール出来ないのは如何にも勿体ない。それどころか、仇敵ニック・フライにさえ手柄を横取りされてしまうシビアな現実が虚しいことこの上ありません。

一方、ここ20年で最大のレギュレーション変更に腐心したF1は、醜悪な外観と引き換えに、運動エネルギー回生システム“KERS”など目新しいエンターテイメント要素を取り入れることで大きく進化。未曾有の景気後退に見舞われた今季、チーム運営に必要なコストの削減が至上命題となっているF1にとっても、2009年シーズンは向こう10年の興行を占う上でのターニングポイントとなります。モータースポーツそのものの存在意義が問われている昨今、新たな時代の幕開けを迎えたF1ですが、しかし、そこに佐藤琢磨の姿はありません。

ホンダ撤退の激震に揺れた2009年ストーブリーグ。本田宗一郎が存命であれば、「こんな時こそF1をやれ」と一喝したのかもしれませんが、世界的な経済不況の煽りをまともに受ける形となったF1にあって、その余波を被ったのはホンダだけではありません。レギュレーションの変更によるマシン形状の大幅な見直しなど、善くも悪くも見所が多かったオフシーズンの佳境、2月も頭に飛び込んで来たニュースは我々を落胆させるには充分なものでした。

スーパーアグリの撤退で浪人生活が続いていた佐藤琢磨。年明けの時点で、ホンダを除きドライバーが確定していなかったチームはスクーデリア・トロロッソのみ。トロロッソのシートを巡っては、レッドブルの育成ドライバー、セバスチャン・ブエミと、トロロッソのルーキードライバー、セバスチャン・ブルデーがそれぞれ琢磨のライバルと目されていました。琢磨は、去年の9月にトロロッソのヘレステストに参加し、その後も11月のバルセロナ、12月のヘレスと計3度のテストで実力をアピールし、トップアベレージを確保するなど印象的なパフォーマンスを披露。1月にセバスチャン・ブエミの加入が発表されたことで、残る一つのシートには琢磨の起用が有力視されていました。ところが、最終的にブルデーの残留が決定したことで、琢磨はシート争いに敗北。トロロッソでの参戦を目指していた琢磨はF1カムバックへの道を閉ざされることになりました。

琢磨が、トロロッソのシートを得るに相応しい「実力」を持っていたことは、計3度のテストでも証明されています。ただ、トロロッソの様に予算規模の小さいチームでは、ドライバーの実力だけでなく、持ち込みスポンサーという形での「持参金」もドライバー選択の大きな要素になることが多いと言われており、事実、トロロッソは、シート争奪戦が実質的にはチームへの持ち込みスポンサー獲得競争であったことを示唆しています。

ある意味、トロロッソのドライバー起用術は、チームの継続性という点ではごく自然な流れを汲んでいるものと解釈することができ、現在のF1やトロロッソの置かれている状況を踏まえれば、今回はむしろ琢磨サイドが「ブルデーから金の力でシートを奪い取る」べきだったと理解するのが妥当です。が、現実問題として、琢磨に対する日本財界からの実質的なバックアップはほぼ皆無であったと言え、結果的に、琢磨のマネジメントと日本の社会が「ブルデーから金の力でシートを奪い取る」ことを実現できなかった……というのが、今、琢磨ファン、ひいては日本のF1ファンが目の当たりにしている状況です。

世界規模の景気悪化が叫ばれる昨今、モータースポーツの、それも莫大なコストを強いられるF1ともなれば、新規のスポンサードは躊躇されこそすれ、買って出る企業は皆無だと思われます。しかし、今や有数の自動車先進国となった日本の潜在的なF1ファンの力と、琢磨のカリスマ性を考えれば、琢磨のF1参戦をサポートするのは「投資」としても決して悪い話ではないと思います。琢磨の様なエース級の日本人ドライバーは、この先、そうそう簡単に現れるものではありません。日本からの「実弾」による援護射撃で、何としても琢磨のF1復帰を実現させて欲しい……というのが、マッシュアップ元のF1ジャーナリスト・川喜田研氏を始めとする評論家筋と琢磨ファンの切なる願いでした。

ただ、最終的にトロロッソのシートを争った2人が、母国のF1人気に決定的な影響力を持つ存在であったことは確かで、それを考えると、あのスーパーアグリですら資金的援助が得られなかった文化的背景を鑑みるに、「モータースポーツの定着度」という部分で、そもそも日本に勝ち目は無かったのかもしれません。ジャパンマネーにかつての勢いがない今、琢磨は厳しい戦いを強いられたのだと思います。

ということで、私にとっては今季ほど夢の無いF1も珍しく。当面はブラウンGPの行く末を見守ることになるでしょうが、予算規模ではライバルに遠く及ばないだけに、シーズンを戦う上では、開発スピードなどで苦しい部分があると思います。1ヶ月前までは参戦すら危ぶまれていたことを考えると、新チームの船出は素晴らしいものでしたが、それをしても魂の拠り所がありません。

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