はじめの一歩 New Challenger
Posted by ramhorn05j
PlayStation Storeでの配信も開始された「はじめの一歩 New Challenger」。2009年における私生活でのエポックな出来事といえば何と言ってもフルHDモニタの導入ですが、実はPS3にご執心召されるそれよりも以前からテレビアニメのルーティーンからは遠ざかっていたので、これがアナログ地上波で視聴した最後の作品です。
ハイライトは勿論、鷹村守 vs ブライアン・ホークのWBC世界戦ですが、作画、脚本、演出、どれを取っても一貫してスタッフの意識水準が高いシリーズなので、本作も名作との誉れ高き評価に恥じぬ出来映え。「はじめの一歩 New Challenger」までに要した6年の歳月は、第一期を極限にまで美化してしまい、一歩クラスタでは前作があまりにも大きな存在となってしまいましたが、そのプレッシャーに屈することなく、肥大化したファンの期待に見事に応えています。
2010年も5月に突入しようかという時期ではありますが、本エントリは「Summary of 2009 - はじめの一歩」として投稿される予定だった草稿の縮小再生産となります。
概要
「はじめの一歩」は、1989年から週刊少年マガジンにて連載されている森川ジョージの長編ボクシング漫画を原作としたアニメシリーズ。2000年10月~2002年3月に掛けて日本テレビ火曜深夜アニメ枠で放映された第一期は、深夜アニメとしては異例の全75話のOAを数える長期シリーズとなり、平均視聴率4.5%という驚異的な数字を記録したことでも知られています。
いじめられっ子の幕之内一歩が、天才ボクサー・鷹村守と出会うことでボクシングに目覚め、一流のボクサーへと駆け上がっていくサクセス・ストーリーを描いた「はじめの一歩」。ライバルとの戦いや、周囲の人間達との交流を通じて、彼がボクサーとして、人間として、大きく成長して行く様が活写されています。強くありたいと願う一歩のひたむきな姿が多くの視聴者の共感を呼ぶ一方で、この作品では“熱血スポ根”の要素だけでなく、そのトレーニング方法や成果が発揮される試合描写に至るまで、ボクシングドラマとしてのリアルが段階を踏んで表現されており、その点も人気の秘密となっています。
New Challenger
一歩が日本フェザー級チャンピオンになるまでを描いた第一期、及び、OVA、テレビスペシャルを経て、6年ぶりに復活した「はじめの一歩 New Challenger」は、テレビアニメ版の新シリーズとして、2009年1月~6月まで、同じく日本テレビ火曜深夜アニメ枠で放送されました。全26話と比較的短期間で終了したものの、主要スタッフは第一期テレビ版をほぼ踏襲しており、新たにハイビジョン制作となっているのが特徴です。
日本フェザー級チャンピオンのベルトを手に入れた幕之内一歩が、更なる高い目標に向かって戦いを繰り広げる第二期は、鴨川ジムの鷹村や好敵手・宮田一郎を始めとした個性豊かな登場人物を巡る人間ドラマが見所。一歩の成長が直線的に描かれた第一期に比べ、第二期は一歩以外のキャラクターにフォーカスが移ることで世界観の厚みを増していますが、やはりどこを切っても王道的な成長の憚歌にはカタルシスがあるものです。
特筆すべきは、この「はじめの一歩」シリーズに関しては、毎回“本気のマッドハウス”が手掛けている為、アニメーションとしてのクオリティが非常に高く、何度見ても飽きが来ないということ。アニメオリジナルに偏重せず、比較的忠実に原作を再現しながら、同時にアニメというものをよく理解している精鋭スタッフ陣が制作に当たっているので、原作漫画の面白さがアニメになることでより洗練される理想的な好循環型の作品となっています。迫力のある構図とスピード感のある演出、劇画調の荒々しい線画と陰影のある表情、一切の遠慮がない突き抜けた熱気と迸る衝撃の表現……例えば、古くはどこか「YAWARA!」をも彷彿とさせる緩急自在のアクション描写が爽快で、物語の楽しさは言うまでもなく、それをベースに絵が動くという魅力が爆発しています。特に、クライマックスに向けて加速度的にインフレする豪腕演出の破壊力は素晴らしく、怒涛の如く畳み掛ける刺激的なイメージの連続が一際印象に残ります。
そこにあるのは、一枚一枚の絵の魅力の大切さであり、緊張感を盛り上げる音楽と動画の相乗効果による巧みさであり、果ては、闘争本能という暴力性にこそ惹き付けられて止まない人間という本質への問い掛けであり、しかし同時に、一つの事に打ち込むことの尊さであり。一頻り没頭した後には、きっと様々な気付きと大きな余韻を与えてくれる「はじめの一歩」シリーズは、ボクシングの魅力も然ることながら、一人の人間が様々な経験を積み重ね、たくましく成長していく過程が描かれており、勇気付けられる作品です。最近では珍しくゴールデンでの視聴に耐え得るポテンシャルを持った作品なので、正直、この作品が深夜枠で放映されている現状が勿体無い。教育的価値……というと押し付けがましく些か大袈裟ですが、今のアニメ市場はどちらかというと「大きいお友達」向けの商品が主流なので、今の子供達にこういったアニメをもっと観せてあげたいものです。