2010年07月27日 (火)

訃報・森毅さんが死去

私の人生哲学に影響を与えた現代の賢人の一人である森毅さんが死去しました。享年82歳。

2009年2月に火傷で重症を負ったという一報を受けて以来、内心かなり気掛かりだったのですが、死因は敗血症性ショックだったということで、想像以上に傷は深かった様です。もう随分と久しく“おじいちゃん”というイメージが定着していたので、82歳と聞いても特別感慨も湧かないほどのいい歳であったとはいえ、笑って大往生とは行かなかった晩年が何とも勿体無いというか寂しいというか、複雑な心境です。

一般に通り名は数学者で京都大学名誉教授の森毅。しかし、氏のメディア像は実に多芸多才で興味の幅が広く、一刀斎から始まって、よろず評論家、老人フリーター、コメンテーター、エッセイスト、編集者と、実に多彩な肩書きを持っていた異能の人。私の入り口は「メディアで見る好きな著名人」の一人として氏を挙げ、その審美眼を賞賛していた母者で、現役時代には幾つか著書を読み漁ったりもしましたが、学問として数学を専攻していた訳ではない自分にとっては、数学的思考のイロハは軽く嗜む程度に遊んでおいて、やはりユニークな視点で語られる教育論や、独特の慧眼で社会問題に鋭く切り込む評論家としての顔が一番馴染み深いものだったと思います。

無駄の効用と失敗の許容を説き、撓るが折れない、柔軟だが誠実、そんな竹の様な思想を従えながら、物事の本質を見抜く洞察をあっけらかんと繰り出す“先生”の筋の通し方は実に愉快で、本当に楽しい人だった。楽しい人だったけど、政界に進出することを拒み続けた根っからの教育者でもある氏は、その飄々とした語り口とは裏腹に、どこまでも粋な文化人でした。

こういった訃報に際しても、心のどこかで「ブログのネタが出来た」と思っている自分がほとほと最低で嫌気が差しますが、それでも一言、無性に何かを書かなければならない衝動に駆られ、これに至るものであります。哀悼。

リンク:
数学者で京都大名誉教授の森毅さん死去 独特な社会評論 - おくやみ・訃報

ARCHIVES

  • Browse All Archives [1745] »

RECENT ENTRIES