2015年04月07日 (火)

Now Playing|How to Dismantle an Atomic Bomb

単体の備忘録でも述懐しておりますが、HD800 + HD-DAC1(AMP Gain: High)はちょっとしたサラウンド効果と見紛うほどの浸透圧と包容力が楽しめるのでいいですね。それこそ外気を取り込めば音の層が空気に溶け込んで自然と一体化してしまうような感覚です。

既に五感は現環境に最適化されている上、古い機材が残っていないのでかつてのドルビーヘッドホンと直接比較することは出来ませんが、印象としてはそれほど遜色なく、それでいて二度とあの頃には戻れないであろうピュア志向な洗練さ、繊細さが加わって、有り合わせのお手頃な高級オーディオとしては理想的なパッケージの一つに思えます。

さて、昨今のU2に対しては愛情半ば生温い眼差し半ばというか、老害感の増すバンドの性格や立ち振る舞いと、そこに見え隠れするエゴや強欲さ、狡猾さなどに対してやや揺り戻しが来ており、彼らのパーソナリティやコンテキストから興味が失われつつある今日この頃。ただ、言ってもU2のロックは孤高の音楽ですから、旧作ライブラリの輝きは失われません。

最近ローテーションすることが多いのは、リアルタイムでは自分の中で最も音楽的評価が厳しく、劣化していくU2の現実に対して葛藤していたであろう第4期の辺り。といっても、No Line On The Horizonにはあまりピンと来ておらずほとんど聴いていないので、やはり中心はHow to Dismantle an Atomic Bombになります。NHK BS2で放送されていた「POPMART~ライヴ・フロム・メキシコシティ」からU2に入り、その流れで電脳3部作もお気に入りだった自分としては、All That You Can't Leave Behindには却って思い入れがありません。

厳密に言うと、当時、All That You Can't Leave Behindは名盤の誉れと共に相当入れ込んで鑑賞していた記憶があるのですが、今この時代に聴き直してみると不思議とさっぱりなんですよね。多分、それは一種の「飽き」で、自分の中ではたかが10年やそこらの期間に消費し尽くされてしまう程度の流行り廃りのあるアルバムだったと。

元々、第4期は

  • Elevation (Influx Remix)
  • Electrical Storm (William Orbit Mix)
  • How To Dismantle An Atomic Bomb

辺りの流れが好きだったのですが、その点、本作は今聴いても色褪せないし、いつ聴いても普遍。むしろ、2004年時点では

「名曲揃いなのに一枚の作品として見ると何かが物足りない」
「ただの良い曲の寄せ集めに過ぎない、特別感のないアルバム」

などと小賢しい評論かぶりで斬って捨てていた記憶すらあるのですが、聴けば聴くほど愛着も生まれてくるのに、その割にはさっぱり色が着かない、その無味無臭具合が凄い。

25年というキャリア分の強烈なドラマ性を内に秘めたまま、きっとそれを表に出してしまえばリスナーの気が滅入って胃もたれしてしまうような灰汁の強さをひた隠しにして、ここまでの老獪さを音楽に乗せてみせるんですよ。この尋常でなさが普通に感じられるというのが実に恐ろしいアルバムです。

一応、21世紀初頭のU2の流れとしては、個々の楽曲の洗練に重きを置いていた節があって、シングルの重要性を語り、純粋に一曲一曲の力を信じ、突き詰めていく途上にあったのがAll That You Can't Leave Behind。それを踏まえた上で、枯渇した作品のテーマ性をはっきりと打ち出し、POPでの傷心を癒すことでの転生を目指したのが本作でしょうか?政治バンドと揶揄されるU2の作品群の中では、時節柄、本作での渇愛は最も「意義」のない叫びだったかもしれませんが、常に何処か"くどさ"があり、単純明快なキャッチーさとは無縁で、故にシングルヒットはあまりなく、しかしアルバムは売れていた、そんなかつてのU2像からすると随分と印象が異なるのも事実です。

例えば、彼らのアルバムは、出端こそ変化に戸惑い、或いは単純に変化を楽しんで視聴するのが慣例ですが、どの作品も聴き込んで理解が深まれば思うことは何時も同じ───U2はU2。彼らが変われば変わるほど、絶対に変わらない部分こそがより一層浮き上がって見え、彼らが変貌を遂げれば遂げるほど、核となる部分が抽出され凝縮されて行く。もっとスマートなやり方もあっただろうに、それが出来ない不器用さにもどかしさを覚えつつも、だからこそ、それまで辿って来た生真面目なまでの過程に信頼を感じ、変化の先にこそ本質の極みがあると確信して止まないだけの根拠があったのが以前のU2。

が、本作は何者にも染まるし、何色にも染まらないのだから難しい。奥が深いようで何処かふわっとしているし、凄みがあるようでいてあっけらかんとしているし、気難しくはないが単純でもない。時に重く、時に淡白で、時に軽薄ですらあるそれは聴く度に表情を変えるのだけれど、The Joshua TreeやAchtung Babyのように、殊更に際立って優れた個性も見当たらない。そんな未だに全貌が掴めないHow to Dismantle an Atomic Bombへの現状認識は、この10年の摩耗を経て、結局のところ「普遍という名の特別さに彩られた傑作」という納得で落ち着きつつあります。

どう考えても良質な楽曲が揃っているのに、それを素直にアルバムの評価に直結させるには躊躇がある、短絡さと慎重さが相半ばしていて、本来であれば何の引っ掛かりもないはずの純粋なメロディと熟練されたサウンドの楽しさが、ここまで聴く者を訝しい気持ちにさせ、沌乱させるこれがロックでなくて、名盤でなくて何なのだ。ある意味ではPOPの意趣返しですが、そこに一切の悪意や捻れを感じないのがポイントですね。

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