2012年09月08日 (土)

HD800|中間報告:経過目安100時間

こういう機材を下ろしたてのエージング過渡期は、製品自身の性能ではなく、慣らしの過程で(そのちょっとした加減で)音が変化するので、仮にある場面では音痩せして感じられたとしても、それが一時的なものだったりするのでなかなか判断が難しいのだけど、やはりNR1601は、いや想像以上に、ヘッドホンにとっても良いAVアンプなのかもしれない。まあ、PHONES端子回りに割と手を抜かないのはマランツ製品全般に言える特徴かもしれませんが、むしろ、高級機なのに直挿しでも鳴っちゃうレベルの能率を持っているHD800が凄いのか───どちらにしても良い傾向です。

高音がやや汚く聴こえるのはHD800の性格的な部分が大きいようで、ヘッドホンアンプであれば、その辺も見越した製品チョイスで上手くバランスを取ることもできるのでしょうが、とりあえずそれは置いておいて。

実駆動時間が大雑把に75~100時間を経過した時点で、既に先のファーストインプレッション(経過目安50時間未満)で述懐した「音源によっては......音痩せしていると感じる場面も」という部分は皆無であり、日毎に量感もマシマシで、どんどん豊かに、伸びやかに、音像も研ぎ澄まされて行く。HD650を参考にすると、まだこの後に大きな音色の変化、それも思わず感動に身震いするほどの、恐ろしく深遠な部分での大観的な気付きがあるはずですが、基本的に100時間というスケール感は、製造直後の音の固さが抜け、その製品が本来持っている性質に見合った音質が定着する区間。今がまさに、小気味良い快感に酔いしれる時間帯という訳です。

Amazon.co.jp:HD800

一つ驚いたのが、NR1601で2ch出力時(fs = 44.1 / 48kHz)に設定することが出来るサウンド補正機能"M-DAX"が要らなくなったこと。

例えば、PSストアで配信されているミュージックビデオの一般的な音声フォーマットであるAACを想定するとして、この手の圧縮音源だと、従来はM-DAXをOFFにすると音に厚みがなくスカスカな鳴り方になってしまって物足りなかったのだけど(その分、ダイナミックレンジというのか、音場は狭く団子状態になりがちで、解像感は失われる傾向)、距離感、スピード、張りといった特性によるものなのか、どういう訳かHD800だとその辺の違いがあまりない。厳密にはON/OFFで違いはあるのだけど、パッと聴きではごく僅かな、あまりにも微妙な差異(肉厚に関しては)。で、M-DAXをOFFにすれば、当然、全体的に音抜けの悪い、栓の詰まったような息苦しさは解消されるので、HD800と合わせた音源本来の解像度や空間表現も生きて来るし、結果的にいいこと尽くめ。まさに意外な副次効果といったところで、嬉しい収穫です。

一方、こうして更なる高みへと旅立ってみて、実感として分かったこともあります。即ち、HD650とは、それこそ唯一無二の完成形と言ってもいい、独自の魅力を持った機種であったと言うこと。圧縮ノイズすらHD650色に染め上げてしまう、まったりとした、まるで浮き世から隔絶されたかのようなまろやかさを持つ音色と、圧倒的な量感に溢れる、豊潤にしてあまりにも甘美な低音の響きは、HD650にしか出せない類いのものです。故に、HD650の音色にゼンハイザー最新の装着感の良さをプラスした正統進化系の後継リプレース、或いは、HD650の低音はそのままに更なる解像度を追求した、正しくHD650とHD800の中間的な役割を指向するモデル、そういった位置付けがマニアのニーズとしてHD700に求められていたのも充分過ぎるほどに理解できます。現実にはそうはなりませんでしたけどね。

参考

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