2010年05月18日 (火)

Blu-spec CD備忘録

2008年の登場以来、傍目には採用が進んでいるのかいないのか、イマイチよく分からないBlu-spec CD。私自身もなかなかBlu-spec CDの音質を堪能する機会がありませんが、そもそもBlu-spec CDとはなんぞや?と───

ソニー・ミュージックが開発したBlu-spec CDとは、Blu-ray Disc向けの製造技術と素材を応用することで高音質化を図ったCD。これまでのCDを凌駕する極微細加工と、ジッターの低減を実現することで、マスターテープ・クオリティに忠実な音質が再生出来るというもの。基本的にはユニバーサル・ミュージックやビクターが採用しているSHM-CDや、EMIのHQCDに追随した新素材CDです。

高音質CDの中でも音質面でのアドバンテージが謳われているBlu-spec CDの大きなポイントは、スタンパの高精度化と頒布メディアの高精度化。まず、金型原盤のカッティングについては、Blu-ray Discの製造技術であるブルーレーザーダイオードを採用し、より波長の短いレーザー光を使用することで、同じデータからでもムラの少ない精密な加工を可能としています。更に、より精度の高い加工を実現する為に、最適化された光ファイバーの採用、カッティングマシンのファンレス化による振動の排除などが行われています。

また、こうして作られた正確なピットを転写する頒布メディアには、Blu-ray Disc用に開発された高分子ポリカーボネードを使用し、ジッターを低減。精度の高い凹凸をディスクに刻み込むこと、読み込みエラーの少ない安定した再生を実現することで、マスターテープに近い鮮明な音質を提供するという訳です。ただし、規格自体は通常のCDDAフォーマットと互換している為、現行のCDプレイヤーで再生出来るのが特徴となっています。

───と、まあこんな具合に、華々しく登場した高音質CDの最後発として、満を持してデビューを果たしたBlu-spec CDではありますが、実際のところは「気にはなるけどあくまでも材質を変えただけのCDDA」であることは念頭に置くべきでしょう。例えば、手前の再生環境で考えてみると、母艦がMacBook Proという時点でオーディオ的には不利なので、そこへ持って来てソフトウェアがiTunesでは、幾ら最適な出力を組み合わせたとしても限界があると思うのが普通。ところが、これをAppleロスレス+サウンドエンハンスプラグイン+2ch-24ビット / 96kHzの構成でアップコンバートするだけでも結構良い音が出てしまうので、単品でそれ以上の満足感が得られるかというと、これはなかなか疑問です。

しかし、未だに16bit / 1411kbps / 44.100kHz以上の「CDよりも高音質」な音源が一般には浸透せず、それどころか圧縮音源にすら呑まれる勢いであることを鑑みると、コンシューマ市場は「CD以上の音質」を求めてはいないのかもしれません。将来的にはダウンロード販売がマーケットのシェアを握ることは確実なので、エントリー環境で手軽に高音質を楽しみたい人間としては、直接ロスレス音源を購入出来る様になれば全て解決するのですが、それはまだ先の話。そうでない内は、高音質CDの様に「既存の規格内での最高音質を目指す」といったコンセプトがあっても良いと思います。

そもそも、個人的には一時期CD-R吟味にハマっていたこともあって、この手のメディアを語る時に付いて回る「デジタルデータ自体に明らかな差異が生まれる訳ではないので、高音質CDは単なるプラシーボ効果」という見方には若干懐疑的です。デジタルと言っても、再生環境は所詮アナログ。スピーカーがアナログである以上、どこかで必ずD/A変換はされている訳で、アナログ回路の相互影響性をそう簡単に分離することは出来ません。そういった影響が回り回って、最終段階でどの様な差になるのか、という話なんだと思います。

CDの様なリアルタイム・メディアでは、完全なデジタルと仮定したとしても時間軸の同期・非同期を抜きにして語ることは出来ませんが、それにしても、こういった話を見るに付け、加工精度が直接音質に影響するCDは、その分、よっぽどデジタルじゃない(否定形)。まあ、それも含めて、左様にアナログ的なアプローチがあることは、翻って、CDというメディアの熟成の表れなのかもしれません。

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