2019年07月11日 (木)

beyerdynamic DT1990PRO

HD800の無味乾燥ぶりに疲れ、より刺激的で楽しいリスニングホンを求めてHD700に移行した身からすると、やがてbeyerdynamicに辿り着くのは必然だった気がしますが、この選択が吉と出るか凶と出るかはまた別の話。

DT1990PROは価格帯も音の傾向もHD700と似ていますが、単純な上位互換とは感じません。ただ、物自体の作り、質感は素晴らしく、素直に音が良いと評価できる逸品ではあります。

Image:DT1990PRO

誤解を恐れずに言えば、DT1990PROの位置付けはHD800とHD700のちょうど真ん中。スタジオモニターホンなので解像度は高いですが、HD800と違ってしっかり低音も出ていて、それもHD700のタイトな低音よりも量も質も上等な響きが通り抜けていく。中音域がそれほど張り出していないこともあって高音の当たりは強いですが、HD700のように時折サ行が刺さるといったことはないので、これまでのSennheiserにはなかった不思議なバランス感。"刺激的"ではあるが"イビツ"ではない、ということですね。既に実売で5万円を切る価格帯でこのパフォーマンスの高さは異常です。その分、音場はHD800に劣り、立体感ではHD700に劣るので、何事も完璧ということはなく。

なお、側圧は強めですが、イヤーパッドが両耳をしっかりホールドしてくれるので、むしろ適度に重量が分散して、短時間の装着であればそれほど疲労感はありません。ただ、やはりエッジの立ったキレのある音質と重量の関係で長時間のリスニングでも聴き疲れしない───ということは恐らくないので、従来の快適性とは雲泥の差。何度も繰り返すようですが、日常生活における使用時間当たりのカロリーで見れば不肖重度のヘッドホンユーザーなので、長期的に見て、そういった問題点がどう影響してくるか、といったところ。

この軟弱系の健康不良児の肉体でも受け止めきれるレベルの負担であれば、DT1990PROとの歩みを止める理由はありません。

追記1(2019.07.28)

あっ、これは上位互換だわ(耳エージングがやや進んだ結果)。

正確には上位互換ではなく、高音域と低音域が張り出してはいるものの(というか中音域が凹んでいるのかも。低音は、強度や深度はそれほどでもないが優しく包み込むような非常に品のいい響き)音の傾向は厳密にはHD700とは違う。しかし、これまでのどのSennheiserにもなかった"本物感"がある。それこそ「安物のスピーカーにうんと耳を近づけて聴いている感じというか」感で言えば、これまでで一番ドンピシャに近い。開放部がフルオープンではなくスリットなので、密閉感や密着感がやや強いのが響きの良さにも一役買っていそう。密閉型との折衷、と言うと大袈裟かもしれませんが。

正直、首と肩、ひいては体全体への負担は今が一番辛い時期なのだけれど、重量を除いた音質だけで言えば、これはもうHD700には戻れないなぁ。

追記2(2019.08.05)

結局のところ、有象無象のレビュー群、ましてや試聴すらしていないエアプであれば、ある程度の期間、実際に室内環境でその製品を使ってみないことには評価は定まらないので、多少過程が前後したとしても、最終的にこれまでに出費した金額(投じた諸々のコスト)自体は変わらないのだけれど、しかしながら、ここで......HD700がディスコンになったこのタイミングでDT1990PROに辿り着けたのは僥倖。果たして、これで沼脱出───となるかどうかは不明ですが、価格帯のレンジも含めて、この値段でこの音質というのは、本当に信じ難いレベルのいいヘッドホン。

追記3(2019.08.15)

日々栄養を吸収し、成長する姿さえ頼もしいDT1990PRO。耳エージングもどんどん進行し、中音域にも張りが出てきていよいよヤバい。身体的な負担も何とか許容範囲内では収まってくれそうな雰囲気であるし、これは本当にHD700の完全上位互換なのでは?HD-DAC1との相性が良さそうなのもポイント。

能動的に「無難」を選択し続けた結果のSennheiserシリーズであったとはいえ、こんなに良いヘッドホンを見逃していたとは。やはり沼は深い、しかし、今は騒音の激しい季節が過ぎ去った後の平場での真価が楽しみ。

追記4(2019.09.01)

正直、これまでの歴代の機種であったような小さな不満の類いがないし、これはひょっとしたらDT1990PROで沼脱出できるのでは?経済的な意味でも、HD-DAC1と合わせて、まあまあ身の丈に合ったレンジとも言えなくはない奮発率であるし。これは想像以上に幸運な巡り会いだったのかもしれない。

追記5(2019.09.05)

DT1990PROがあまりにもスンバラシイし刺激的なので、DT1770PROの方まで気になってくるという残暑の季節。これまで苦手意識のあった密閉型の垣根さえ越えて行くテスラ2.0ドライバーの威力たるや。

沼脱出どころか、むしろ深みに嵌りつつある感のある今日この頃。最近の高級ヘッドホン市場は、どこもボッタくることしか考えていないようなインフレ率著しい風潮ですが、5万円と言えば一昔前で言えば立派なハイエンド帯の価格。こうして今でも5万円できっちりハイエンドクオリティを出してくるメーカーもあるので、ここを掘り始めるとヤバい気がする。DT1990PROという禁断の扉を開いてしまったことで、自分は今、ヘッドホン沼の深淵に立っているのかもしれない(小並感)。

追記6(2019.09.15)

嗚呼、遂にDT1770PROにまで手を出してしまった。恐るべきDT1990PROの、なんという魔性のヘッドホンぶり。

しかし、DT1770PROのこの高級感のあるソリッドな見た目の美しさよ、うっとり。ハードウェアとしては同じ45mmテスラ2.0ドライバーを採用しながら、開放型・密閉型という出で立ちの違いを含めて、音質については微妙にキャラクターが異なるので使い分けは可能───即ち、夏季の騒音遮断用としては十二分な性能があり、平板力の高いモニターでありながらリスニングをも許容してくれる懐の深さがあるので、FPS(シューティングゲーム)との相性の良さは勿論、その地均しぶりから汎用性も高い。ただ、やはり純粋に音楽を楽しむには流石にDT1990PROの色気は図抜けている。

あまり器用なことは出来ないので、それでも普段メイン使いで敢えて一本化するとすれば......DT1770PROかなぁ。静謐な空間を作るって本当に難しいですからね。

追記7(2019.09.16)

ところが、だ。そこは傑作のテスラ2.0ドライバーとはいえ、音の籠りというのか圧迫感というのか、密閉型特有のプレッシャーに抗うことができず、残当に挫折しました。やはり、自分はこのDT1990PROの系譜を、5年でも10年でも粛々と乗り継いで行くのが王道だと思われる。オーディオ趣味は試行錯誤の連続ですから、良い勉強代だったということで。

ついでと言っては何ですが、DT1770PROという兄弟機のディテールを体感できたことで逆にDT1990PROのキャラクターの輪郭もはっきりしたので、怪我の功名ではないけれども、珍しくリケーブルの類いを物色。

前段、実はこの間にシープスキンイヤーパッドにチャレンジするもあえなく失敗しており(ブーミーというのか、中低音域が極端にブーストされ、音のバランスが変わってしまう。装着感はとても良い)、左様にDT1990PROはイヤーパッドやケーブルも含めて既にそれ自体が完成されたパッケージである為、下手にパーツを弄るとその黄金比を破壊してしまう恐れがあります。従って、ポイントとなったのは安価であること、そして、なるべく標準ケーブルに近い音質バランスであること。ということで、OYAIDE HPSC-X63を試着。何事も経験だ。

追記8(2019.09.17)

やはり標準ケーブルには敵わなかったよ......モノラライズというか、低音域が引っ込む、もしくは引き締まる代わりに中音域が伸びてくるが、全体としては平板で立体感に欠ける音。DT1990PRO本来の色気は失われてしまう、これは厳しい。

追記9(2019.09.26)

一部ではDT1990PROにベストマッチとの評価もあるエリートベロアパッドを調達。

個人的にはバランスドパッドの音が気に入っているので、大雑把にバランスドとアナリティカルの中間と聞いてもあまりピンと来ていなかったのですが、なるほど、確かにこれは最適解の一つに近いかも。低音も概ねしっかり出ていますし、変に高音がオミットされてしまうような違和感もほぼない。それでいて、バランスド比で言えば解像度がアップしますしね(音場は狭くなるかも)。Dekoniなので装着感の良さは言うに及ばず。当面はこれで様子を見ることになりそうですが、落ち着き次第、カスタムチャレンジはひと段落しそう。

それにしても、素晴らしき良きヘッドホンとはよく言ったもので、あの頃聴いていたステレオが戻ってきた気がする。経年劣化で美化されているであろう脳内イメージのステレオにさえ肉薄してしまうDT1990PROとは果たして、これは何年、何十年と自分が求めていた宝具なのでは?

追記10(2019.09.27)

やはりDT1990PROはケーブルもパッドも標準仕様がグッドですねー。エリートベロアのトータルバランスはかなり良好なのだけれど、音楽を聴く時の気持ち良さと見た目のカッチリ感を優先。

追記11(2019.10.14)

ACOUSTIC REVIVEのRHC2.5AK-TRIPLE-C-FMは、標準ケーブルにかなり近い音質バランス。最安値なら1.5万ほどで購入でき、2.5mと十分なケーブル長があるのもポイント。

ただ、アンプが力不足なせいもあるかもしれませんが、どうしても音楽を聴く時の気持ち良さ、特に立体感では標準ケーブルに劣る。単に解像度を上げるだけなら他に選択肢もある訳ですしね。これ以上のグレードとなると価格的にもケーブル長的にもこちらの要求する条件に合致するものはないので、いよいよ本当にカスタムチャレンジはひと段落しそう。やはりDT1990PROは標準パッケージが完璧でした。

追記12(2019.12.22)

相変わらず日常の耳として快調に酷使しているDT1990PROですが、イヤーパッドの塵や埃を取るのに定期的にコロコロミニをローラーしているのがどうも具合が悪いらしく、ベロアの起毛が剥がれて一部生地がむき出しになって来てしまいました。幸い、スペアのイヤーパッドは今のところサウンドハウスでいつでも購入できるとはいえ、寿命半年持たなかったのはちょっと考えないといけない感じ。

ただ、今回の追記の肝はその件ではなく、スペアとして一時的に宛てがうつもりだったアナリティカルの音の良さの再確認用備忘録。とりあえず、基本的にこの半年弱の期間はずっとバランスドの標準仕様で運用しているので、「サウンドの変化が耳に新鮮である」という部分は差し引いて考える必要がありますが、一つには耳エージングが完全に進行したこと、また、一つには窓エアコンの騒音が落ち着いたこと、これらの要素が影響して「ここまで音が良かったかな?」と率直に驚くクオリティ。

説明書通り、ベースは解像度の増した極めてナチュラルなサウンドですが、しかしながら、音楽のニュアンス表現に秀でるほどの解像度アップを果たしながら立体感が損なわれておらず、直近安物スピーカー感で言うところの耳殻を弾くような音のキレ、迫力、高音のピークが際立っており、中音域の色気がマシマシで......と、まあヤバイのなんの。言葉で表現してしまうとファーストインプレッションをそのままなぞっているようにも聞こえるので、これが今後半年経った時にこの新鮮さを維持出来ているかどうかは分かりませんが、いずれにせよ、これはちょっとアナリティカルに傾倒してしまいそうな心地良さ。それ即ち、翻ってDT1990PROのポテンシャルの高さということだと思うので、半年毎にイヤーパッドを交互に換えて───という楽しみ方もアリかもしれませんね。

追記13(2020.01.02)

サンプル数が少な過ぎるのでこれをもってして品質をどうこうは言えない気はしますが、とりあえず自分が購入した個体は音質にバラツキがあったのでメモ>イヤーパッド。

前追記の流れからバランスドの新品イヤーパッドを注文したのですが、これを仮にAとすると、オリジナルとは掛け離れたバランス感。文字通り高・中・低音のバランスが変わってしまっていて、極めてブーミー。それこそ、Dekoniのシープスキンを使っているかのよう。何故そうなってしまうのか理由が分からなかったので、試しにもう一つ追加でバランスドの新品イヤーパッドBを購入したのですが、こちらはオリジナルと遜色ない、いつものDT1990PROのサウンド。

アナリティカルもオリジナルのイヤーパッドとは別に新品Cを注文してみたのですが、前述のバランスド・イヤーパッドほどではないものの、こちらも微妙にバランス感覚に違和感あり。ABCともにパッケージや梱包、見た目に変わったところはなく、普通に新品の商品だと思えたので、購入店舗であるサウンドハウスが良い悪いということではないと思いますが、たまたま不良品を引き当てたのか、メーカー検品にバラツキがあるのかは定かでなく、ハードな運用と長期的なメンテナンスを視野に入れて考えた時に、この杞憂が杞憂で終わることを願うばかり。

追記14(2020.04.06)

こんな世の中でも、素晴らしき良きヘッドホンとの旅路は続く。

カスタムチャレンジはもう随分とひと段落しているのですが、さりとてたまたまインターネッツの波間を検索していて某掲示板での情報に辿り着いた為、DT1990PROにDT1770PROのイヤーパッドを装着してみる。合皮パッドは装着難易度が高くおぼつかない手元でギリギリやっていると危なっかしいので当然ベロアの方で。

おお、これは確かにマッシブ。中〜低音域が重厚になりボーカルや高音域はやや主張を控える印象ですが、想像以上に悪くない。ただ、DT1990PROのサウンドが変化しているというよりは、音の距離がすごく近くなっている印象ですね。故に、密閉型ほどではないものの、圧迫感やプレッシャーは多少覚えるようになります。しかし、それ以上に音が良いのであまり気になりませんね、ハードウェアとしての構造が変化している訳ではありませんし。

良く言えば、DT1990PROをベースとしたDT1770PROとの折衷案。開放感とプレッシャーとのトレードオフとなりますが、長期運用を見越した上での音質の変化としては十二分の価値があるように思います。

追記15(2020.08.06)

何の前触れもなく、今朝、右耳から音声が出なくなる。こんなこともあろうかと去年辺りに確保していたHD-DAC1のスペアと物置状態だったDT1770PROさんを引っ張り出してトラブルシューティング、アンプは問題なし、ケーブルも問題なし、DT1990PRO本体の故障と断定。

流石に一年で壊れるとは予想していなかった、これは歴代のソニー製品でもゼンハイザー製品でも無かったこと。5年でも10年でも渡り歩いて行くつもりがこの短命はあまりにもショックであるし、イヤーパッドの不良率といい、ちょっとベイヤーダイナミックへの認識を改める必要があるかもしれない。

追記16(2020.12.22)

決まらないホームポジション、悪化するQoL、DT1990PROを装着することが物理的なストレスにしかならない日々。どうしてこんなことになってしまったのかは分からないけれども、自分との相性は最悪の製品。音が良いだけのクソヘッドホン。結局、一年ぽっきりで壊れたのが全ての運の尽きでしたね。

補足しておくと、過去ログでも自己申告している通り、自分は頭が大きい、耳たぶが邪魔、辺りがネックとなることが多い人間なので、文字通り自分の頭の形に合っていないヘッドホン───ということになるのでしょうが、歴代のソニーやゼンハイザー製品は勿論のこと、DT1990PROにしたってそれこそ一年目までは全く問題なかったのですよ、あの日突然壊れるまでは。

いずれにしても個体差......ということになるのかは分かりませんが、組み立て精度であったり、品質管理であったり、そういった細かい部分での齟齬の積み重ねが、こういう結果を招いたのかもしれません。

追記17(2021.05.25)

本当にDT1990PROには恵まれなかった。いくら音が素晴らしくても、その他の諸々が伴わなければ沼を脱出することは叶わないし、ましてや10年スパンで乗り継いで行くことなど不可能、と痛感させられた物件。

音作りは絶対的に好きなメーカーのはずなのに、DT1990PROに打ち拉がれるあまり、正直、ベイヤーそのものを見限りかけていたのですが、実はそれを思い留まらせたレリックが存在します。10万円という価格帯のレンジは本来的に自分の手の届く経済圏ではないし何かあった時に買い換えることも出来ないので、これは例外中の例外としてここに付記させてください。

どういう巡り合わせか自分の手元には今T5p 2nd Generationがあるのですが、これは従来の密閉型への印象を覆すオーパーツ。密閉型なのに、まるで開放型を聴いているかのような、とても自然で不思議な音を鳴らす。逆に言えば、ゴリゴリの密閉型のズンドコが好きな人には物足りないのかもしれませんが、変に音が上擦っていたり、反射音・反響音が歪んでいたりすることもなく、バランスの良いとても澄んだ音が耳に届く。これまで密閉型に特有のものと思っていた圧迫感、プレッシャーの類いが一切ないのに驚く。

物理的な着け心地はクッショナブルで非常にソフト。ドライバが前方に傾斜して取り付けられている関係か、その分、スイートスポットは狭め(ちょっと装着位置がズレると会心の一撃ではなくなる)。

T5p 2nd Generationのサウンドを一言で表すとすれば、とても美しいヘッドホン。正直、この純度の高さはハイエンドに固有のものだと思うので、年数が経てばやがて下位機種にもこの技術が降りてくる......という単純な話でもないと思うのですが、これまでアレルギーを感じていた密閉型の癖が一切ないので、このオーパーツがミドルレンジ以下の壁を乗り越えてくれれば自分のヘッドホン環境は一変すると思うし、逆にそれが叶わないからこそのハイエンドの圧倒的なアドバンテージという気もします。

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