2014年04月02日 (水)

まだまだ未確認で進行形

飽和状態が続く深夜アニメの活況を尻目に、相変わらず容赦のない断捨離に邁進せざるを得ない昨今、作シーズンは「鬼灯の冷徹」「のうりん」「桜Trick」と比較的新作アニメを消化できた期間だったと思いますが、そんな中でも、2014年1〜3月期最高の一本だったのが日常系ラブコメディ「未確認で進行形」。

通称「みでし(MDS)」は4コマ漫画が原作とあって、非常にテンポ良く軽快にストーリーが描かれていますが、それを連続性のある30分1クールの作品に仕立て上げるのに費やされたプロフェッショナルの仕事がとにかく丁寧だった印象で、安定した作画と音響、優れた劇伴音楽も手伝って、アニメーションとしての質が抜群に高かった。浪花節に訴える訳ではありませんが、やはりスタッフから愛情や真心を注がれている作品は視聴者の心にも響きます。

内容としては、シリアスクラッシャーの夜ノ森紅緒と三峰真白の絡みを筆頭に、変態的だがしつこさのないギャグ要素を流れるようなさり気なさで随所に盛り込むことによって、一歩間違えば重たくなりがちな設定を上手く演出として転がし、それこそ悪意のない優しい世界を実現しています。そして、それを象徴するかのような実に清々しいまでの爽やかなトゥルーエンド。

匠は細部に宿る───を地で行く野菜検定、料理への過剰な熱量、背景で語る男に見られるような丁寧な描写の積み重ねの上に、ここまでファンタジーな(巨乳安産型)主婦も、ここまで衒いのない(忠犬)イケメンも、総じて、ここまでのナイスカップリングもおりますまい。夜ノ森小紅と三峰白夜の初々しいまでの夫婦っぷりに、紅緒同様、視聴者はラブコメの波動を感じながら、それこそを原動力としながら成り行きを見守ってきた訳ですが、この癒しさえ感じるほどの安心感は、往年の「ああっ女神さまっ」じゃないけれど、懐かしささえ覚えるほど、昨今、久しくなかったように思います。

実際のところ、その平和的な日常さ故に、本作は初見のインパクトからしてやられた訳ではありません。むしろ、内容的には第一印象は地味なくらいだったのが、回を重ねる度にEDが気になり、OPが気になり、真白が、紅緒が、小紅が、白夜が......そうやって、ある種の生々しささえ感じるほどの土着の空気感が身体に染み渡ると、いつの間にか離れられない大切な作品になっていました。

桃内まゆら、末続このは、三峰白雪などの脇役も含めて、嫌いになる登場人物が一切いないという、まさに桃源郷の「みでし」にあって、ギミックやトリックを用いて起承転結を組み立てる訳ではなく、悪く言えば(4コマ漫画と聞いてイメージされる典型的な)中身のない物語を、「丁寧に描く」───という仕事一本でこれだけ色鮮やかに膨らませ、楽しませてくれたこと、中には、テレビアニメ化することの意味、30分1クールという枠の中で最終的に娯楽作品の定義として何を訴求するのかといった意義のようなものを求める視聴者もいるでしょうが、それでも私はこれだけの至福のひと時を与えてくれた「みでし」に感謝を惜しみません。

今作には新人声優も多く起用されており、小紅そのものといった照井春佳を始め、松井恵理子のような思わぬ芸達者や、吉田有里といった飛び道具も発見されているので、何かと得るものも大きかった作品ではないでしょうか。ローテーションとしてはTOKYO MX→BS11→ニコニコ動画で見納めのつもりだったのが、もう最終回は何回リピート再生しているか分かりません。終わってみればあっという間だったけれど、この時期に「未確認で進行形」という素晴らしい作品があったことを、久々に"難民"という気分を味わうことになったこの作品を、制作「動画工房」の名前と共にひっそりと記録しておきたい。

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