2014年07月21日 (月)

Marantz NR1605トライアル

昨今、デジタル技術の進歩が目覚ましいAVアンプですが、反面、中身はPC化しており、それはもはや消耗品と等価でさえあります。特に、エントリーモデルに関しては製品サイクルの短縮に伴ってコスト主義が進んでおり、作りが甘く、早晩、陳腐化するのも覚悟しなければなりません。

マランツのロングランシリーズとなっているNR160xも、非常にサイクルの早い製品。NR1601とでは僅かに4年のマイナーチェンジ差分でありながら熟成が進んでおり、OSDやリモコンの改善に始まり、全部入り機としての総合性能に秀で、近年、各社がこぞってスリムデザインAVレシーバーを投入する中で、先駆者としての存在感を放っています。

NR1601自体に大きな不満があった訳ではありませんが(正確には、HD800にとっての性能不足を不満に感じてはいるが、このジャンルの製品を買い続けている限り、それが大きく改善されることはないだろうと考えているので)、経年劣化に伴う少々不審な挙動も見られるようになった今日、HDMIパススルーや画質調整機能を筆頭に、NR1605における4K / 60pに対応するアップコンバート機能と7chフルディスクリート・パワーアンプ、また、192kHz / 24bit DACによるDSD、FLAC、ALAC含むハイレゾへの"完全対応"は、買い替えを後押しする決め手の一つとなります。しかし、最大の懸念はドルビーヘッドホンの不在であります。

その手のコミュニティでは未だにDHP復活待望論があるように、頭内定位を解消し、PRO LOGIC II MUSICによる豊かな音場を実現するドルビーヘッドホンの喪失はあまりにも大きい。従って、アンプそのものの進化による音質の向上と、ドルビーヘッドホンの代替によるサラウンドの劣化がどの程度トレードオフになるかは出たとこ勝負。ただ、インターフェイスは間違いなくNR1605の方が優れているし、何より今はHD800のポテンシャルを存分に発揮できる状態───その為、一度沸き上がった物欲の衝動はNR1605を購入する方向へと傾いて行きました。

一方で、別候補としてはここに来て急浮上してきたNA8005も大いに頭を悩ませる存在で、以前、

その結果、私自身、興味の矛先が最近では2chステレオ(ピュア志向)にやや回帰、傾倒しつつあり、ドルビーヘッドホンで無くなるのならいっそ......

と嘯いていたように、単純な音質で言えばHi-Fi志向のNA8005に分があるはず。USB DACとしても大いに使い出がある。ただ、そうなるとマルチチャンネル音声は諦めなければならない。これはゲーム用途においては致命傷になり兼ねず、慎重さが求められます。その為、手前味噌ながら暫くの間PURE DIRECTモードを試行し、ステレオ環境でのネット、テレビ、ゲーム、オーディオの運用が可能かどうか吟味を重ねました。

結論としては、左右のチャンネルで個別化した音塊が、平面上を直線的な折衝でもって耳元に張り付いてくる感覚は、奥行きと空間把握が重要になるゲームにおいては最悪であると判断せざるを得ず(音楽にとっては、HD800のハウジングを波状面で駆動できるステレオサウンドこそ絶妙なんですけどね。本当にままならない)、当面はNA8005を保留。最終的に、NR1605への乗り換えを選択したのは正解だった、と思いたいところですが、はてさて。

以下寸評。まず、真っ先に気付くのが音がクリアであること。これはNR1601比におけるアンプ性能向上の恩恵です。他方、バーチャルモードにおいては、側頭部を包容する自然な音の広がり、繋がりという点では劣り、在り来たりなサラウンド効果という点ではいささか地味ではあるものの、リバーブに不自然さがないので音の粒がシャープ。NR1601は、悪く言えば───時として輪郭の眠いぼやけた音像が、ラジオやテレビ番組において「台詞が聞き取り辛い」といったケースに発展する場面もありましたが、それが解消されたことで、却ってHD800との相性は良くなっています。

あくまでも個人的な感想であることは断っておきますが、HD800本来の解像度寄りの音場を活かしつつ、ステレオとは有為に違いを見出すことのできる音響効果なので、NR1605のバーチャルモードは思いの外有用です。ただし、それはマルチチャンネルソースに限っての話。ステレオ音声出力時にはPRO LOGIC IIによる拡張が無いので、サラウンドは恐らく効いていません。これは痛過ぎる。

実際問題、Macではステレオ、PS4のゲームではサラウンド、同じPS4でもトルネになると一転してステレオ、とその都度入力切換によって音の距離感が変わってしまうので、聴覚を最適化することすらままなりません。

故に、ドルビーヘッドホンを直接代替することは出来ませんが、NR1605自体の画質(液晶ディスプレイに1080p to 1080pで表示すると、NR1601比でより滑らかに、鮮やかになった描画は一際印象的。しっとりと落ち着いた高精細系)、音質、使い勝手の洗練はメリットとなるので、+/−をトータルで見た時の総合評価としてはギリギリイーブン......と言ったところか。頻繁に断続的な音切れが発生したり、画面の切り替えに時間が掛かったり、あまつさえコンセントを引っこ抜かなければ電源を落とすことが出来なかったり、如何せん動作に不安定さが見受けられるのは頂けませんが、この時期に、早々返品交換だの重労働だのといった立ち回りを演じられるほど、精神的にも肉体的にも余裕は無いのですよ。

結局、賭けには勝ったとも負けたとも言えないなぁ。この飽食の時代に、確かな実力に裏打ちされたマランツの製品群には贔屓目を感じているだけに、NR1605の完成度はやや中途半端に映ります。「実力はあるのだから、これでDHPがあれば多少のことには目を瞑れた」という意味では、ドルビーヘッドホンの不在は痛恨の極みと言わざるを得ません。

追伸

なお、HD800にとってのより良い環境、また、液晶ディスプレイとゲーム機の間にAVアンプを噛ますことでの遅延の問題(一応、マランツのAVアンプには表示遅延を抑えたゲームモードがあります)を回避する為のよりスマートな環境の構築を考えると、やはり一筋縄ではNA8005を諦めることは叶わず、また、先頃、海外の見本市にて参考出展されたマランツの新しいDAC兼用HPA「HD-DAC1」も気になるところなので、ステレオ環境への矯正作業は継続中。前述の通り、この個体には初期不良が疑われることと、運用を最適化する為にはステレオかバーチャルのどちらかにモードを一元化する必要があるので、であればいっそ中継ぎとしての役割に振り切ってしまうのがベターではないか、という判断に基づくものです。

とはいえ、経済的に大変厳しいご時世であることには変わりがないですから、必要なのは更なる節制と節約、真新しいNR1605を含めて「売れるものは全て売る」という自転車操業の理であります。

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